
Hale
肩に手を置いてくるドキュメンタリーのナレーター
声のカテゴリー
ナレーターは聴き手がいちばん長く一緒にいる声で、いちばん速く決められてしまう配役です。ナレーターに要るのは長さを生き延びることです。速く再生しても明瞭で、音量を上げても耐えられて、30分たってもまだ聴いていられる。だから候補は1行ではなく、長い一節で試し聴きしてください。
短いサンプルで声を魅力的に見せるものはすべて——個性、特徴、珍しい音色——1時間の中では負債になります。聴き手は数分で声に慣れ、そのあとに気づくのは、その声の不規則なところだけです。変わった母音、特徴的なサ行、文末で習慣的に上がる癖。最初はどれも見えず、3章目には耐えがたくなっています。
プロのオーディオブックのナレーションが比較的地味に聞こえるのはそのためです。野心の欠如ではありません。同じ声が8時間、気づかれないままでいなければならない形式に対する、正しい工学的な答えです。
いちばん役に立つ習慣は、サンプル文ではなく実際の原稿で試すことです。いちばん気に入っていない段落——造語の地名が並ぶところ、技術的な説明、切れなかった長文——を取って、全候補をまさにその段落で走らせてください。あなたの最悪の段落を生き延びた声は、ほかのどこでも問題ありません。
それから長さを確かめます。3分が最低限の有用なテストで、5分ならもっといい。聴き手と同じように、何かをしながら聴いてください。内容ではなく声のほうに注意が引っかかり続けるなら、それが答えです。
フルキャストの作品では、ナレーターに構造上の明確な仕事があります。枠を保ち、劇化できないものを描写し、登場人物に受け渡す。聴き手が地の文とセリフを瞬時に区別できなければ、この仕事は失敗します。
確実な解決は、帯と処理で分けることです。どの登場人物も占めていない音高の範囲にナレーターを置き、PlusかProなら話速をわずかに遅くし、ミックスするならわずかに違う空間を与える。シーンよりやや乾いた、あるいは近い場所です。聴き手は2往復のうちにこれを拾い、そのあとは二度と意識しません。それこそ狙いどおりです。
日本語には、もうひとつ使える分離の軸があります。文体です。地の文を常体(「だった」「である」)で書き、セリフを敬体にする。あるいはその逆にする。日本語の読み手にとっては馴染みのある書き分けで、音声にしたときも、声の帯とは独立した第2の手がかりとして働きます。
造語のある作品には必ず、名前と地名と造語をすべて洗い出して、どう読まれるかを確認する工程が要ります。先にやれば20分です。9章書き出したあとにやれば、その9章ぶんかかります。
日本語ではこの工程が英語より重くなります。漢字は読みが一意ではないからです。人名の「琴音」「彩」「湊」、地名の「日暮」、造語の「天穹」。どれも複数の読みがあり得ますし、合成エンジンは統計的にありそうなほうを選びます。読みを指定する設定はないので、外したものは台本の側でかなに開き、うまくいった表記を一覧にしてください。長い作品では、12章目を1章目と揃えているのはその一覧です。あとで人のナレーターに頼むことになったときも、最初に求められるのがその資料です。
出版されているオーディオブックは、英語でおよそ1分あたり150語、日本語でおよそ300字から350字で進みます。ほとんどの人の第一印象は「遅すぎる」です。遅すぎません。黙読の速度はその2倍から3倍あるので、自分の読む速度に合わせたナレーションは、自分には軽快に感じられ、運転や料理や歩行をしながら聴いている人には追えません。
遅いままにしておく理由はもうひとつあります。聴き手は自分で速度を上げるからです。オーディオブックとポッドキャストの相当な割合が1.25倍以上で聴かれていて、速く録った素材はその設定で使い物にならなくなります。自然に感じるより少し遅く作ることが、聴き手に選ぶ余地を渡すことになります。
例外は、地の文の中のセリフです。登場人物の行は周りの地の文より速くていいですし、速くあるべきです。その対比自体が、描写から発話に移ったことを聴き手に伝える仕組みの一部だからです。
冒頭の1行ではありません。造語の名前と長い文と厄介な節が入った段落を使ってください。ナレーターが落ちるのはそこです。
ナレーターへの疲労は10秒のサンプルには現れません。作品全体を任せる前に、実際の原稿を3分ぶん書き出してください。
人名、地名、造語を試し聴きし、読み違えたものは本文の表記を変えます(かなに開く、区切りを入れる)。読みを指定する設定はありません。9章書き出したあとではなく、最初にやってください。
主要な登場人物が使っていない帯にナレーターを置きます。聴き手はほかの手がかりなしで、地の文とセリフを聞き分けられなければいけません。
公開する単位で作ります。編集後の作り直しが安く済み、長い作品でもファイル管理が正気を保ちます。
個性より一貫性です。ナレーターは何時間も聴いていられなければならず、それは均一な話速、きれいな子音、控えめな音高の幅を報います。個性的な声は1分は楽しく、1時間では疲れます。プロのナレーターが想像より地味なのはそのためです。
一人称の小説ならナレーターが登場人物なので、兼ねるのが正解です。三人称の作品では分けてください。ナレーターが悪役も演じると、聴き手は誰が話しているのか分からなくなります。ナレーションが絶対にやってはいけない唯一のことです。
会話より遅く。日本語の朗読は1分あたり300字から350字くらいが目安で、黙読より明確に遅い速度です。読みながら追うと遅く感じ、聴くだけなら正しい速度です。書き出しが自分にとって少し遅いと感じるなら、たぶん合っています。
ここは期待値を先に書いておきます。日本語で届く声は最大14種類で、ja-JPのネイティブは女性1・男性1の2つだけです。残り12は多言語対応の声で、日本語は話せますが母語ではありません。具体的な声は指定できず、どの声に当たるかはキャラクターの性別と年齢帯で決まります。ライブラリの40人のうち36人は最初の候補が多言語の声です。長い地の文を任せるなら、ナレーター候補のキャラクターを何人か選び、それぞれ自分の原稿で3分通して確かめてください。短い試聴では差が出ず、長さで出ます。
二人芝居の単純な場面なら、オーディオブックの朗読者と同じやり方でできます。話者が4人になると、別々にキャスティングしたほうが劇的に分かりやすくなります。このツールが存在する理由そのものです。
独立した行にして、あとに間を置いてください。よくある失敗は、章見出しを最初の文につなげてしまうことで、聴き手は構造をまるごと取り落とします。
台本を貼り付ければ、CastDubが登場人物一人ひとりに声を割り当てます。あとは完成したボイスドラマを書き出すだけです。
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